My Human Gets Me Blues

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2007-11-01 [長年日記]

_ [Music] Witches, Goblins, etc. / Sadik Hakim

Withces,Goblins,Etc.(サディク・ハキム/エロール・ウォルターズ/アル・フォスター)

ヒルトン・ルイスのあれと時を同じくして、これもひっそりと日本盤が出ていた。SUBURBIAxSteepleChaseという企画らしいが、よりにもよってこれを選ぶか。えらいぞ橋本徹。

スティープルチェイスのピアノ・トリオものと言うとすぐケニー・ドリューかテテ・モントリューかという話になってしまいがちだが、むしろこういう目立たない奴に思わぬ掘り出し物が多い。このサディク・ハキムも元はチャーリー・パーカーやデクスター・ゴードンとの共演・録音経験を持つビバッパーで、1950年代以降はカナダに移住したり放浪の生活を続けていたらしい(来日経験もあるはず)が、プロデューサーのニルズ・ウィンターは元はといえば晩年のバド・パウエルのライヴに通いつめていたようなバップ馬鹿なので、このへんのバップ・サバイバーに対する審美眼は確かだ。この人は最後まで共演者に恵まれなかった人で、残っている数少ない録音の大半はろくでもないベーシストかろくでもないドラマーと組んでいるのだが、ここではベーシストはともかくドラマーがアル・フォスターなので安心して聞いていられる。

ピアニストとしてのこの人の特徴はセロニアス・モンクやエルモ・ホープに近い珍妙不可思議なハーモニック・センスで、これは1940年代当時の録音からずっと変わらない。明らかにパウエル以降のバップ・ピアノの語法を踏襲してはいるのだが、それだけでは括れない個性がある(まあ、単純にテクニック面がかなり怪しいというのもあるんだけど)。そしてこの手のピアニストの常で、なんとも良い曲を書く。フレディ・レッドとか、(質的にかなり違うけど)マル・ウォルドロンとか、そのへんを思い浮かべれば当たらずとも遠からずでしょう。このアルバムでも全てを自作で通していて、どれも魅力的なメロディーを持つ個性的で良い曲ばかりである。特にタイトル曲は小林陽一がどこかで演奏していたはずで、名曲と言って恥ずかしくないものだと思う(そのときはBosamiというタイトルじゃなかったかな?)。

_ [Obit] itojun氏逝去

急なことで言葉もない。おくやみのようなものを書きました。


2007-11-03 [長年日記]

_ [Music] On Red / Jerry Bergonzi

JERRY ON RED(JERRY BERGONZI)

ジェリー・バーガンジというと、なんとなくいつまでも若手中堅という気がしていたのだが、実は1947年生まれなのですね。若手どころじゃない、もう還暦だ。下積みが長くてメジャー・デビューが遅かった(確か90年代に入ってから)ので、そんな印象が植え付けられたようだ。

最初に聞いたのはポール・デズモンド亡き後のデイヴ・ブルーベックのサイドマンか何かとしてで、そのころから変わらない私なりのバーガンジの印象というか形容は、「小粒なコルトレーン」というものだった。音色とかフレージングが、フリーになだれ込む前のコルトレーンに良く似ている。サックス/音楽教師としてのバーガンジを信奉する人(往々にしてバークリー出てたりする)にこういうことを言うと本気で怒られたりもするのだが、でもまあ、別にけなしているわけではないので勘弁してもらいたい。なんだかんだ言ってこのアルバムなどは良く聞くし、今までに出たどの作品を聞いても、うまいなあ、いいなあ、と素直に思うのだが、なんだか全体的に地味なのね…。ブレッカーもボブ・バーグも死んでしまったし、できれば生で聞いてみたい実力本位なテノリストの一人だ。来日したことあったっけ?


2007-11-04 [長年日記]

_ [Life] 自転車復活

このところ忙しくて完全に放置していた自転車を修理した。と言ってもタイヤを替えて錆を取って油を注して磨いただけだが…。最初はずいぶんひどい有様だったが(何せ外に出しっぱなしだったので)、だいぶ元に戻りましたですね。よかったよかった。

しかし、大泉学園から吉祥寺まで自転車で走ると異様なほどの小径車遭遇率に驚かされる。それも安いのは言うに及ばず、本物のモールトンとかブロンプトンの高いのとか、場合によってはリカンベントとかがごく普通に走っておる。局地的ブームなのだろうか。そう言えばで検索すると、デブに限って小径車に乗ってるだのサーカスの熊にしか見えないだのとひどいことが2chに書いてあったが、経験上全くその通りだ。言い返せないのが悔しい。

_ [Food] 最近マイブームなスイーツ

あえて誰とは言わないが、もっと甘いもののことを書け、おやつのページの更新はどうしたと言う人がいる(そういえば後藤さん先日は大変お世話になりました)。心を込めてジャズの話を書いても誰も読まず食い物の話ばかり読みやがって最近の民度の低下ぶりは嘆かわしいばかりだが、まあそれはともかく最近食べて良かった甘味を2つ。

_ [Food] アテスウェイの塩キャラメル

吉祥寺の駅から歩くとそれはそれは遠いアテスウェイであるが、ようは東京女子大の門の真ん前だからバスかタクシーならすぐだろう。いつ行ってもやたら混んでいる。自転車で行くとふつうのケーキはちょっと持ち帰りようがないのだが、焼菓子やキャラメルなら大丈夫だ。とくにキャラメルは、ちょっと塩味がするのがいい。しかし、キャラメル一粒が100円以上って一体…。

アテスウェイ (A Tes Souhaits!)

東京都武蔵野市吉祥寺東町3-8-8 カサ吉祥寺2

11:00-19:30

Tel. 0422-29-0888

月曜定休(月曜祝日の場合は火曜休)

_ [Food] パティスリー・プラネッツのチョコレート

パティスリー・プラネッツでは普段はケーキしか買わないのだが、たまたまチョコレートを買ってみたらなかなか良かった。ショップブランド(?)の「プラネッツ」がなんだかんだいって一番うまいような気もするが、バナナの風味がついている「エクアドル」もなかなか良い。しかし、チョコレート一粒が200円以上って一体…。

パティスリー・プラネッツ

東京都練馬区大泉学園町5-8-20

10:00-19:00

Tel. 03-5933-1233

水曜定休

本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]

_ 後藤雅洋 [自分では買わないけれど(高いから)、やはりドゥバイヨルは美味しいよね。]

_ mhatta [そこまでおいしいおいしいと言われると、買いに行かざるを得なくなるわけですが…。]

_ TrackBack [http://kuchicom.pupu.jp/keyword/0b5e20460429132d.html クチコミ..]


2007-11-05 [長年日記]

_ [Music] The Waiting Game / Tina Brooks

The Waiting Game(Tina Brooks)

薄幸のテナーサックス奏者、ティナ・ブルックスがブルーノートに残した最後の録音。例によって録音当時は未発表のまま、はるか後年になってようやく日の目を見た。プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、お蔵入りの理由すら覚えていなかったそうである。

サックスを吹く人に言わせると、この人は技量的に下手なのだそうだ。私にとってはこの掠れたようなすがれたような独特のトーンが大変魅力的なのだが、楽器をやる人のセンスというのは普通のリスナーのセンスとずれていることが多いようで、今ひとつ良くわからない。半端なピアノ弾きがモンクを嫌うようなものだろうか。そういえばあのチャーリー・パーカーでさえ、自分のトーンに満足できなくて晩年はクラシックのサックス奏者、マルセル・ミュールに師事したがっていたと聞く。ミュールはもちろん偉大な音楽家だったのだろうが(聞いたことない)、作曲法やオーケストレーションならまだしも、楽器の扱いに関してパーカーが変なコンプレックスを抱く必要は全く無かったように思うのだが。

この作品は、True Blue(Tina Brooks)Back to the Tracks(Tina Brooks)と比べるといろんな意味で若干小粒な感じは否めないものの、相変わらずブルックスらしい曲作りと演奏が楽しめる。メンバもなかなかの人選で、個人的には、ドラムを叩いているのがフィリー・ジョーというのが大きい。

とにかく哀愁というか湿気を帯びたいかにもハードバップらしいメロディを書かせたらこの人の右に出る者はいないのだが、この作品も出だしはあまりぱっとしないものの、3曲目くらいからはハードバップで煮染めたようなメロディの波状攻撃にノックアウトされる。唯一のスタンダード曲である5曲目もしみじみとした吹きっぷりで良い。正直に言うと情緒連綿というかもっちゃりしたマイナーメロディみたいなのは生理的に若干苦手なのだが、この人のはあまり嫌味に感じないのが不思議だ。そして最後を飾る6曲目のタイトル曲がちょっとラサーン・ローランド・カークのFly By Nightに似た感じの曲で、カッコ良いのですね、これが。

標題のThe Waiting Gameというのは待機戦術とか根比べという意味だが、正当な評価を受ける前に待ちくたびれてこの世を去ってしまったブルックスにとってはなんとも皮肉なタイトルである。もう少し何とかならなかったのかという気がしないでもないが、流行り廃りもあるし、まあ、どうしようもなかったのでしょうね。何はともあれ長生きしたものが勝ちという感を深くする今日この頃です。

本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]

_ Jake [パーカーの逸話について、そんな話があったんですね。 マルセルミュールは、間違いなくサックスの父であると思います h..]


2007-11-06 [長年日記]

_ [Music] Brotherhood / Bruce Williams

BROTHERHOOD(BRUCE WILLIAMS)

デブがアルト・サックスを吹いているとなんとなく安心するのだが、論旨がいきなりめちゃくちゃ過ぎますか。でもキャノンボールとか、晩年のマクリーンとか、まあパーカーもそうだけど、ガタイのでかい人が相対的にちっちゃいアルトを吹き鳴らしているというのはなかなか絵になると思うのだが。アルトがお腹に乗るくらいでないといけませんね。

このブルース・ウィリアムズという人はデブな上に吹きっぷりというか踏み込みがなかなか良いのだが、曲作りにも独特のセンスがあって、ソウルフルなタイトル曲などはスタンダードと言っても十分通用する。スタイルも斬新とは言えないが、かといってウィントンの弟子どものような借り物感もあまり無い。黒さの質にジャズというよりはソウルというかR&Bぽいところがあって、そこらへんが個人的に好みである。このまま行けばハンク・クロフォードの後継者となり得るだろう。昨日のティナ・ブルックスではないけれど、昔はこういう個性的な中堅がいっぱいいたのだ。こういう人たちがごまんと存在するくらいでなければ、その分野の隆盛はおぼつかない。これはどんな分野でもそうなのではないかと思う。


2007-11-08 [長年日記]

_ [GNU] LinuxコンソーシアムDayでしゃべります

11月22日のLinuxコンソーシアムDayとか言うものに呼んでいただいた。お題は例によってGPLv3である。岡村さんの有益な話と私の漫談が聞きたい人はどうぞお越しください。

_ [Music] Sounds From Rikers Island / Elmo Hope

SOUNDS FROM RIKERS ISLAND(ELMO HOPE ENSEMBLE)

エルモ・ホープも、なんというか、ツイていないとしか形容しようがない人生を送った人だった。バド・パウエルの幼馴染でピアノ練習友達、才能もまんざら劣っていたとは私は思わないのだが、ビバップが隆盛を極めてパウエルが脚光を浴びていたころにはR&Bバンドでドサ回り、ようやくニューヨークに戻ってきたと思ったら薬物問題でキャバレー・カードを没収されてクラブに出演できなくなり、仕事を求めて1957年にはロサンジェルスに流れて行ったものの、ウェストコースト・ジャズの人気が一段落した後の西海岸で、フリーランスの、それも黒人ジャズマンとして暮らすのが困難だったのは想像に難くない。同様の問題でクラブに出演できなかった友人のセロニアス・モンクが、それでもニューヨークにしがみついて成功を掴んだのとは対照的だ。結局1961年にはニューヨークに戻ってくるものの状況はあまり好転せず、1967年に44歳の若さで亡くなるまで、あるいは亡くなった後も、ほとんど評価に恵まれなかった。

これはホープが生前に発表した最後のリーダー作で、ドラッグで捕まってニューヨーク・ライカーズ島の刑務所にお世話になった皆さんによる音楽、という企画のようである。どうやらテナーとベースに適任が見つからなかったようで、当時サン・ラーと一緒にシカゴからニューヨークに出てきたばかりで(少なくともニューヨークで)逮捕経験があるとも思えないジョン・ギルモアとロニー・ボイキンスが入っているが、これはアーケストラの仕事だけでは食えなかった彼らのアルバイトなのでしょうね。ちなみに2曲目のEcstasyは旧作Trio and Quintet(Elmo Hope)ではVaun Ex、5曲目のTrippin'は同じくSo Nice、KevinはPLAYS HIS OWN COMPOSITIONS(ELMO HOPE TRIO/Philly Joe Jones)ではDe-Dahとして演奏されているもので、ロイヤルティの二重取りを目論んだのか全然違う曲名が付けられているが、新曲ではない。とは言え何せドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズだし、曲も良いし、Homecoming!(Elmo Hope/Jimmy Heath)以来の三管編成で分厚いアンサンブルが楽しめる佳作だと思います。パーカーと共演経験があるアール・コールマンと、あともう一人マルセル・ダニエルズという知らない人が1曲ずつ入って歌っているのも楽しい。


2007-11-12 [長年日記]

_ [Music] A Tribute To Brother Weldon / Monk Hughes & The Outer Realm

A Tribute to Brother Weldon(Monk Hughes & The Outer Realm/Madlib)

買ったときは、MADLIBというのが誰なのか(というより何なのかすら)知らなかったので、当然モンク・ヒューズとかいうベーシストが率いるグループが演奏しているんだろうと思っていたのである。きょうびウェルドン・アーヴァインのトリビュートとは随分渋いことをやる奴がいるな、というくらいの気分で不見点で買ったのだ。

一応説明しておくと、ライナーにはパーソネルとしてジョー・マクデュフリー(p)だのモーガン・アダムズIII世(org)だのと麗々しく書いてあるが、これはジョン・ファディスの甥っ子でヒップホップのトラックメーカー/プロデューサーとして有名なマッドリブことオーティス・ジャクソン Jr.という人が、一人で全楽器を演奏(ないしサンプリング)したものだ。なので、モンク・ヒューズだの何だのという「メンバ」は実在せず、全てマッドリブの別名義というか仮名なのだが、ドラマーのクレジットだけは本名のOtis Jackson Jr.となっている。おまけにこういう仮名が、セロニアス・モンクやモンク・ヒギンズをいやでも想起させる「モンク・ヒューズ」とか、いかにもジャズマンくさい名前になっていて、なかなかよく出来ているのですね。

最初はドラムはよれよれ、エレピはへろへろ、あまり意図してやっているとも思えない不協和音という有様でどうなることやらという感じなのだが、4曲目あたりから音楽的にも聞き手の側も焦点が定まってきて、そのうち何だか気持ちが良くなってくる。ここに籠もった何とも言えないじんわりした熱気は、昔のある種のジャズが湛えていた「雰囲気」に非常に近い。狙ってこれを生み出しているとしたら大したものだなあ。

マッドリブは他にもジャズっぽい作品を手がけていて、そういう時は基本的にYesterdays New Quintetという名義でやっているのだが(Stevie(Yesterdays New Quintet ( Madlib ))なんかがそう)、この名前を考え付いた時点でマッドリブの勝ちだと思った。もちろんMJQの本歌取りなのだが、それにしても、昨日新しい音楽、というほどジャズをうまく形容する言葉はないですね。昨日の時点で今日の音楽をやろうともがく、というのが、少なくとも「モダン」ジャズの精神ではあったと私は思うので。


2007-11-18 [長年日記]

_ [Music] Don't Give Up On Me / Solomon Burke

ドント・ギヴ・アップ・オン・ミー(ソロモン・バーク)

仕事しながら久しぶりに聞いたら、不意を突かれてなんだか泣けてきたので紹介する気になった。時間帯が良かったのかもしれない。

ソロモン・バークという人がどれだけ破天荒かは、文中でほぼ主人公と言って良い存在感をまき散らすピーター・ギュラルニックの名著スウィート・ソウル・ミュージック―リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢(ピーター ギュラルニック/新井 崇嗣)を読めば分かると思う。なんというか、ひと口に説明しにくいのだ。サン・ラーもそうだが、私は訳の分からない、ひと口で説明しにくい人が好きなので、当然バークも大好きである。

それにしても、1曲目を提供したのはダン・ペン、2曲目と6曲目はヴァン・モリソン、3曲目はトム・ウェイツ、4曲目はジョー・ヘンリー、5曲目はブライアン・ウィルソン(!)、7曲目はエルヴィス・コステロ、8曲目はボブ・ディラン(!)、そして9曲目はニック・ロウ、しかも単なる連中のヒット曲のカバーというわけではなく、全て書き下ろしの新曲ないし未発表曲をもらってきたというのは、改めて書き出してみると壮観としか言いようがない(最後を飾る11曲目の作者は全く無名の人だが、おそらくバークが変名で書いたのだろう。渋くてとても良い曲)。と言ってもこの手のプロジェクトは幕の内弁当的な無個性の「話題作」程度で終わることも多いわけだが、全体にキング・ソロモンのカリスマが十分浸み渡っているというか、この人が歌う以上、曲やバックがどうあれ結局バークの歌にしかなりようがないので、全体を支配する空気にはおそろしく統一感がある。足が悪いのか(そりゃあれだけ太ればねえ…)もう立って歌うことはできないようだが、「脳天に一撃喰らわせる」としか表現しようがない迫力のある声はまだまだ健在だ。ちなみにギターを弾いているのはダニエル・ラノワ、サックスはベニー・ウォレスとこれも豪華。

普段の華やかな活動よりははるかに渋めの落ち着いた雰囲気なので、そのへんで昔ながらのキング・ソロモン・ファンにはそっぽを向かれたのかもしれないが、これは超が付く傑作だと思う。じわじわと盛り上がって良くなっていくのだな。

というか、もう御託はどうでもいいのでとりあえず10曲目だけでも聞け。これが感動のがぶり寄りなの。ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマとの共演。


2007-11-20 [長年日記]

_ [Music] Live at the Bee Hive / Clifford Brown

Complete 1955: Live at the Bee Hive(Clifford Brown)

ここ数年、クリフォード・ブラウンの非公式なライヴ録音が、まあそれなりに公式な形でリリースされ、容易に手に入れられるようになった。どれも音質的にはかなり厳しいが、内容的には聞けば即座に鼻血が噴出するようなとてつもないものばかりである。ブラウニーのトランペッターとしての技量が凄いのは言われんでもよく分かるし、端正と言えば聞こえは良いのだろうが、今ひとつお澄まししているようなところがあって、はっきり言って聞いてもなんかグッと来ねえんだよなーとか思っていた私のような者の了見の狭さを思い知らされる強烈な演奏だ。雑音だなんだと文句を垂れる人は、開き直ってとにかくでかい音で聞きなさい。

この2枚組CDの1枚目から2枚目トラック1にかけては、1955年11月7日、シカゴのクラブ「ビーハイブ」におけるプライベート録音で、かつて「Raw Genius」というタイトルでLP化されたことがある。何でもこのテープは、ブラウニーが自動車事故で26歳を一期に死んだ時、横転して大破した車の中から拾い出されたものなんだそうで、おまけに当時シカゴに逼塞していたソニー・ロリンズを引っ張り出してバンドに入れようとした際のオーディションの記録でもあって、もうこれでもかというくらいに伝説がまとわりついた音源だ。音質はまあ、一般的な基準からすれば大変によろしくないと言わざるを得ないのだが、慣れてしまえばどうということもないし、以前Philologyから妖しく出ていたころに比べればかなり改善されていると思う。それに、ブラウニーやロリンズといったフロント陣と、ローチの音はよく録れているし、ピアノやベースも聞こえないことはない。

で、肝心の内容だが、夭折したテナーのニッキー・ヒルを始め、ギターのレオ・ブレヴィンズやピアノのクリス・アンダーソン、ビリー・ウォレスといった、後年全国的にも名を上げることになる地元の腕利きミュージシャンを交えた長尺のジャムが、もうそれはそれはこってりと繰り広げられる。ビバップを継承し発展させるのは俺たちだとばかりに一流のプライドを剥き出しにするブラウニーやローチが素晴らしいのは言うまでもないが、地元の連中も含めて参加者全員俺が俺がと秘技を尽くして目立とうとする、これは今日び珍しくなった本物の果し合いセッションである。ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド(クリフォード・ブラウン/ヴァンス・ウィルソン/ビリー・ルート/デューク・ウェルズ/サム・ドッカリー/エディ・ランバート/エイス・ティソン/ジェームス・ジョンソン/エリス・トリン/オシィ・ジョンソン/クリス・パウェル)もそうだったが、結局ブラウニーという人はこの手のあまり責任が無い状況での吹きまくりにこそ本領を発揮する人だったようだ。

CD2枚目の残りはBrownie Lives! Live at Basin Street and In Concert(Clifford Brown/Max Roach Quintet)といった形でもこのところ出回っていた、ニューヨークのクラブ「ベイジン・ストリート」でのライヴ。公式盤でAt Basin Street(Clifford Brown/Max Roach Quintet)というのがあるが、あれは「ベイジンストリート」に出演していて有名な、という程度の意味らしく、実はスタジオ録音であった。こちらは正真正銘のライヴ録音だが、ラジオ放送を録音したエアチェックなので、やはり音質がナニである(エアチェックにてはかなり良い方だけどね)。ロリンズのValse Hotとか曲目もおもしろいし、内容も基本的に申し分ないのだが、途中でなぜかローチが抜けてドラマーがウィリー・ジョーンズに代わるのが不思議と言えば不思議。リーダーのくせに、仕事の掛け持ちをしていたのだろうか…。最後に1曲おまけとして、コペンハーゲンで当時のボス、ライオネル・ハンプトンの目を盗んで行った1953年の録音が追加されているが、ゆるゆるのジャムセッションとは言えこれもなかなかの出来。


2007-11-25 [長年日記]

_ [Reading] 升田将棋の世界 / 真部一男

升田将棋の世界(真部 一男)

将棋の真部一男八段が亡くなったそうだ。インターネットのおかげで最近になって再びプロの将棋を観戦するようになったのだが、10月に行われたおそらく最期の対局(対豊島将之四段戦)は、まだ互いの駒がぶつかってすらいない、開始直後の局面でいきなり投了するという不可解なものだった。相当ひどい体調なのだろうと思っていたら順位戦休場の告知が出て、最終的には亡くなった、と。昔から酒量の多さで名の通った人だったが、やはり肝臓か。55歳というのは若死の部類でしょうね。

私は小学生のときに故・原田泰夫九段の書いた入門書(書名は失念)で将棋のルールを覚えたのだが、巻末に棋士紹介みたいなのがあって、そこに唯一七段で載っていたのが真部だったと記憶する。当時はA級に昇るか昇らないかぐらいのころだったはずで、相当将来を嘱望されていたのだろう(そのころの様子は河口俊彦の「対局日誌」の何巻目だかに活写されている)。結局その後は奇病あり離婚ありで棋士としての実績も鳴かず飛ばずだったが、陳腐な言い方をあえてすれば、記録よりも記憶に残る棋士だったということになるのかもしれない。体力面で常に不安を抱えつつ、多かれ少なかれ体力勝負である現代将棋の土俵で戦い続けなければならなかったところに、真部の不幸があったとも言えるだろう。

この本は真部が専門誌に連載していた「将棋論考」の中から、昭和の天才棋士、升田幸三の棋譜に関するものだけを30本選り出したもの。対大山康晴戦のような有名なものに加え、マイナーな棋士やアマ最強を謳われた真剣師、小池重明との棋譜も収めている。棋譜解説以外のマクラの部分は執筆当時の真部の身辺雑記なのだが、晩年の升田のエピソードや芹澤博文の思い出、ガルリ・カスパロフとディープブルーのチェス対戦、ネット対局の話なども出てきて、なかなかおもしろい。真部は名文家とは言えないかもしれないが、流れと勢いのある文章にはなかなか味がある。将棋にあまり馴染みの無い向きでも十分楽しめると思う。

本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]

_ 清家 八千代 [真部8段(9段は追贈)の最後の対局は その後波紋を呼びます。  投了時は大ポカか? とまでいわれた手が その後の4二..]


2007-11-26 [長年日記]

_ [Music] More Live at the Bee Hive / Clifford Brown

More Live at the Bee Hive(Clifford Brown/Max Roach Quintet)

ブラウニーの(公式には)未発表ライヴ紹介第2弾。「More」と言うことで本編の続編と言えば続編なのだが、こちらは1955年6月30日の「ビーハイヴ」における出演の記録ということで、11月録音の本編より半年ほど遡る。テナーもソニー・ロリンズではなく、当時はまだレギュラーだった前任者のハロルド・ランドだ。

これはオーディションだのジャムセッションだのではなくブラウン=ローチ双頭バンドの通常のライヴなので、すべて10分以上続く長尺の演奏でありながら、どちらかと言えば落ち着いたまとまりある快演が楽しめる。録音バランスも穏当で全楽器がちゃんと聞こえるし、音質は意外に良い(単に耳が慣れただけかも)。出だしのテーマが欠けているのを後ろから持ってきてくっつけたり、テープの劣化で音揺れがひどいソロの一部を削ったりと細かい補修は行ったようだが、違和感はほとんど無く、誰だか知らないが出した連中は良い仕事をしたと思う。

内容的には、このバンドによる公式録音は存在しないAfter You've Goneなんて古い曲を(20分以上も!)颯爽と演っていたり、バンドのメンバが一人ずつフィーチュアされるバラード・メドレーなんかもあったりして、当時のバンドのライヴのルーチンも伺える貴重な録音だ。ブラウニーはどの曲でも相変わらず、これだけトランペット吹けたらきっと楽しいだろうなあというくらいに吹きまくっているし、ロリンズの影に隠れがちなランドも豪放な吹きっぷりで後任とは違う個性を見せつける。やはり偉大な兄貴の影に隠れがちなピアノのリッチー・パウエルですら、特にCD1枚目の2曲目のブルーズでなかなかコクのあるソロをとる。バラード・メドレーにおけるフィーチュア曲My Funny Valetineの重厚なアレンジも、おそらく当人がやったのだろう。ピアニストとしてはともかく作編曲能力の高さが買われていたというのが納得できる仕上がりだ。最後を飾るWhat Am I Her For?につけた目が覚めるようなカッコいいイントロも素晴らしい。

おまけとしてCD2枚目の3曲目以降には、かつて「Pure Genius」というタイトルでLP化された1956年2月(推定)のライヴがそっくりそのまま収録されている。こちらはテナーがすでにロリンズに変わっているが、言うまでも無く同水準の好演。録音もバランスがあまり良くなくてベースがほとんど聞こえないが、ブラウニーの音の輝かしさはむしろこちらのほうがはっきり出ている。Daahoudにおける天馬空を行くかのようなソロがすごい。神がかっている。しかし、このバンドはやっぱりライヴのほうが数段演奏が良いなあ。