My Human Gets Me Blues

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2010-05-03 [長年日記]

_ [Food] 麺屋蕃茄@大泉学園

せっかくのゴールデンウィークだと言うのに自発的自宅軟禁下に置かれているのだが、なにせ腹立たしいくらいに良い天気だし、せめて昼くらいは外で何か食おうということで最近近所に出来たこの店に行ってみた。昔は真龍茶荘という中華料理屋があったのだが、それが石神井公園のほうに移転してしまい、その跡を改装して入った店。例によって駅のホームから看板が見える。

中華そばもあるようだがつけ麺が中心で、最近流行りのまぜそば(油そば)も出すようだ。「蕃茄」とは中国語でトマトのことらしく、一応麺の上にはトマト(と茹でたほうれん草)が数切れ申し訳のように乗っているのだが、全体的な味にはあまり影響を与えていない。加えてトマトチーズつけ麺などという怪しげなメニューもあったが、今日は大人しく普通のつけ麺を頼んだ。

濃厚豚骨魚介、という今時のつけ麺のスタンダードが基本線だが、どこか特定の有名店の系列というわけではないようで、様々なスタイルの良いところを素直に集約したという印象。特に肉厚でよく味付けられたチャーシューがおいしい。平均点の高いつけ麺だ。今度はまぜそばも食ってみようかな。

麺屋蕃茄

東京都練馬区東大泉 5-41-22

Tel. 03-3922-5201

営業時間 11:00~15:30 / 17:00~23:00 (L.O. 22:45)

月曜定休


2010-05-05 [長年日記]

_ [Food] スターバックス ヴィア

スターバックスがとうとう出したインスタントコーヒーなんだそうで。友人のアルファブロガー、ヨコタンこと横田真俊氏が絶賛していて、まあ根がミーハーなものだから散歩がてら近所のスタバまで買いに行ったわけです。

コーヒーの評価は個人の味覚に大きく左右されるだろうから、あらかじめ私の個人的好みを述べておくと、

  • 基本的にコーヒー好きなので、あれば何でもつべこべ言わずに飲む。紙カップ自販機可。ブラックなら缶コーヒー可(マックスコーヒーくらい開き直っていれば甘くても可)。安物のコーヒーメーカーで保温のまま放置されて煮詰まった、つやつや黒光りする怪しげな液体でも可。ただしデカフは不可。

  • とは言え、キリマンジャロやモカのような酸味のあるものはやや苦手。

  • 自宅ではたいていマンデリンの深煎りを飲んでいる。ものすごく安い豆ですけど…。コーヒーメーカーはデロンギのゴールドフィルターな奴(デロンギ 保温ポット付コーヒーメーカー CM336N)。何年も使っているがこれは絶対のおすすめ。

という感じ。

1ケース3本(すなわち3杯分)入りで300円というかなり強気の価格設定で、コロンビアとイタリアンローストという二種類がある。とりあえずイタリアンローストのほうを飲んでみたが、お湯を注いだ直後の香りなんかには、おっと瞠目させるだけのものがあるのですね。へえ、ほんとにスタバのコーヒーみたいじゃん、というような。ただ、その香りはこけおどしというか、すぐ無くなってしまうので、後はなんだかしょんぼりしてしまうのだった。

コーヒーそのものの味は、苦味がガツンと強く酸味がほとんどない私好みのもの。とは言え、普通のインスタントとそれほど違いがあるとは言えないと思う。うーん、まあ、諸々総合して考えても、ちと高いんじゃないすか。

_ [Jazz] Thad Jones Eclipse

Eclipse

俗に「積ん読」というが、このところ本当に積ん読積ん聴であって、自宅の机の脇には読んでいない本やらCDやらがうずたかく積もるようになってしまった。なまじちゃんと読んだり聞いたりする時間が無いなら買わなければ良いのだが、どうも私はストレスを物欲の発散で紛らわせるようなところがあるらしく、ちょっと目に付くものがあると後先考えずにAmazonでワンクリックバイしてしまうのである。まあ根がケチなので、どのみちあまり高いものは買わないのだが…。それでもこのところようやく少し生活が落ち着いてきたので、ぼちぼちと溜まったブツを消化しているのである。

で、とりあえず今聞いているのはこのCDなのだが、これはなかなかおもしろい。メル・ルイス(ドラムス)と長らく「サド=メル」ビッグバンドを率いた名アレンジャーのサド・ジョーンズが、唐突に渡欧してデンマーク・コペンハーゲンに住み着いたのは1978年のこと。その後1986年に亡くなるまで何をやっていたんだろうと思っていたのだが、現地でもビッグバンドを結成して演奏を続けていたのですね。そのバンド名がEclipseというわけである。

このCDは1979年のスタジオ録音と1980年のライヴ録音を合わせたものだが、サドはこの後1984年にもう一枚、Three and Oneという作品を残していて、正式にはこちらが遺作となる。ただ、あれはワンホーン・カルテットの作品だったので、ビッグバンドもののリーダー作としてはこれが生涯最後の作品となるわけだ。前半のスタジオ録音もまあ悪くはないのだが、個人的な聞き所はやはり後半のライヴ。正直結構粗いところもあるのだが、ティム・ヘイゲンズ(トランペット)やサヒブ・シハブ(サックス)、ホレス・パーラン(ピアノ)、エド・シグペン(ドラムス)といったなかなか贅沢なメンツを揃えているので、聴き応えは十分ある。特に冒頭を飾るシハブ作のBaby, I Can't Get Over Youという曲が私の好みにどんぴしゃりの脳天気な曲で、思わず何度もリピートして聞いてしまった。最後を飾るサドのMy Centennialもじわじわと次第に盛り上がっていく名演。


2010-05-09 [長年日記]

_ [Jazz] Live / Stanley Cowell

ライヴ(スタンリー・カウエル)

60年代から70年代にかけてスタンリー・カウエルが残した作品はどれも好きでよく聞くのだが、80年代以降のカウエルというのは実はあまり聞いたことがなかったので、試しにこれを買ってみた。1993年、デンマーク・コペンハーゲンでのトリオによるライヴで、ベースとドラムスは当時のレギュラー・メンバーらしい。

カウエルはバップ曲や古いスタンダードをストレートに演らせてもなかなかうまいのだが、やはりこの人は自作自演が最も魅力的な人で、このCDでも聴き応えがあるのは彼の定番オリジナル曲である2曲目や3曲目、そして5曲目だ。特に5曲目は、オスティナートに導かれて途中からぐいぐい盛り上がるドラマチックな展開が素晴らしい。その後の「スイングしなけりゃ意味がない」~「枯葉」~「イン・ウォークト・バド」というベタな選曲も、名アレンジャーとして鳴らしたカウエルらしいひとひねりある編曲が施されているので、手垢にまみれたという感じはあまりしない。特にエリントン曲は、びっくりするくらい都会的(?)なかっこいいアレンジで驚かされる。こういう手があったか、というような。

やや物足りないとすれば、相変わらず高度なテクニックを駆使したシャープな演奏ではあるものの、若いころの演奏からは常に立ち上っていたヒリヒリするような何かがあまり感じられないということだが、まあこれはないものねだりかもしれない。個人的には十分楽しめました。


2010-05-15 [長年日記]

_ [Jazz] Very Alive At Ronnie Scotts / The Buddy Rich Band

Live At Ronnie Scott's(Buddy Rich)

1971年の12月6日から8日の間、ロンドンのクラブ「ロニー・スコッツ」に出演したバディ・リッチのビッグバンドの模様を録音した音源はいろいろな形で世に出ているが、この2枚組CDもその一つ。Moment's Noticeから始まる曲順で、全16曲(うちリッチのアナウンスが3回)という中身である。個人的にはこれが一番しっくりくる。聞けば休日も朝から最高潮です。

ちなみに数年前に出た日本盤(リッチ・イン・ロンドン)は1枚もので全9曲(うちリッチのアナウンスは最後の1回だけ)、Moment's Notice、Watson's Walk、Milestones、Superstar、In A Mellow Toneとリッチのアナウンス残り2回の計7曲が未収録だった。同じく数年前にMosaic Singlesから出たやつ(Rich in London)もやはり1枚ものだったがこちらは全13曲、Superstarとリッチのアナウンス2回が削られていた。そしてこれらの一枚ものはDancing Menから始まるのだが、まあ私の勝手な思い込みかも知れないが、曲調というか雰囲気的にも、これはファーストセット=ディスク1の締めくくりにふさわしいような気がする(というか、実際のライヴでもおそらくそうだったんじゃないかと思うんだが…)。なぜかどちらからも削られているSuperstarもなかなかカッコイイアレンジだし、リッチの皮肉の効いたジョークはほとんどスタンダップ・コメディアンの域に達しているので、完全版を聞く価値はあると思う。


2010-05-16 [長年日記]

_ [Jazz] Guitars / McCoy Tyner

ギターズ(DVD付)(マッコイ・タイナー/ロン・カーター/ジャック・デジョネット/マッコイ・タイナー・トリオ)

ずいぶん前に誰かに勧められ、へえと思って買ったのだが、忙しくてそのままになっていたのを今ごろになって聞いてみた。

80年代以降のマッコイ・タイナーはそれなりに良い作品もあるのだが(スイートベイジルでのライヴとかテラークに残したラテンものとか)、大方はかつての圧倒的な演奏の影法師という感は否めず、ライヴにしてもこりゃスゲェと恐れ入る演奏がある一方で通して聞くとどうしても一本調子というか必ずダレるところがあり(特にバラード)、今ひとつぱっとしないというのが正直なところだった。おまけに近年は糖尿病なのか単にダイエットしただけなのか知らないがえらく痩せてしまって、年齢も年齢だしパワーが身上の人としてはもう終わったかな、という感じが漂っていたのである。

この新作は、マッコイ、ロン・カーター、ジャック・デジョネットという人生の晩秋トリオにとっかえひっかえ5人のギタリストを合わせてみましたという企画で、ギタリストの人選もまあ普通と言えるのはジョン・スコフィールドくらい、あとはビル・フリゼル、マーク・リボ―というアヴァンギャルド寄りの人と、ベラ・フレック、デレク・トラックスというルーツ・ミュージック寄りの人を連れてきている。どの人もマッコイとは毛色も世代も違うが、ジャズをよく理解していて柔軟性抜群という点では共通するものがあり、御大にうまく合わせながらも「聞いていると途中で飽きる」というマッコイ・ミュージックの難点をうまくカバーしていると思った。個人的にはベラ・フレックとの共演が、バンジョーの音色のおもしろさもあって一番楽しめた。

マッコイのピアノに絞って言えば、目立った衰えはないにせよもう古希なのは確かなわけで、力強さという点ではかつてに及ぶべくもない。タッチもずいぶん柔らかくなったなあという印象。ただ、どちらかと言えばそれは良い方向に働いていると思う。何せ昔は前進あるのみでしたんで…。また、付録のDVDで、5人との録音風景を映像でも楽しむことができるのはうれしいおまけ。


2010-05-17 [長年日記]

_ [Jazz] Very Live At Buddy's Place / Buddy Rich

ヴェリー・ライヴ・アット・バディーズ・プレイス(バディ・リッチ)

バディ・リッチと言えばビッグバンドだが、小編成のコンボでの作品もいくつか残している。これもその一つ。70年代に経営していたクラブ「バディーズ・プレイス」での74年録音のライヴだが、ハービー・ハンコックのごりごりファンクChameleonの直後にカウント・ベイシーのスイング・ジャズ定番Jumpin' At The Woodsideが来て、他にもホレス・シルバーの名曲Nica's Dreamをやってみたりと誠に節操のないレパートリーを、マイルスのバンドに参加する直前のソニー・フォーチュンがアルト、ウディ・ハーマン楽団にいたサル・ネスティコがテナー、ケニー・バロンがピアノ(一曲だけ別の人)、アンソニー・ジャクソンがベース、そしてジャック・ウィルキンスがギターという、それなりに豪華なんだがあまり一貫性が感じられないメンツで演奏している。ちなみに黄色いタートルネックに真っ白なスーツというバンドの怪しいユニフォーム(おそらく特注)はピエール・カルダンのデザインらしい。内容としては、とりあえずリッチのドラミングはいつもながら快調なので、それだけでも十分楽しめます。

_ [Jazz] I Remember You / Hank Jones

I Remember You(Hank Jones)

ハンク・ジョーンズが亡くなったそうだ(朝日新聞の記事)。2月にも来日してライヴを行うくらい元気だったので急死と言えば急死だが、享年91歳というからこれはもう大往生の部類だろう。これでデトロイトが生んだジョーンズ三兄弟は、次弟サド(1986年没)、末弟エルヴィン(2004年没)、長兄ハンクの順で全員天に召されたことになる。

個人的には90年代以降何度か生で見る機会があったが、なまじ全盛期(といってもこの人の場合、1930年代(!)からコンスタントに活躍してきたので、いつが「全盛」期なのかよく分からないのだが)の細かいところまで神経が行き届いた素晴らしさを知っているだけに、晩年の自動ピアノのような演奏はやや寂しさの残るものだった。いかにもハンクらしい良さが存分に味わえたのは、厳密に言えば1970年代までだったのではないかという気もする。

その70年代、ハンクはトニー・ウィリアムスに引っ張り出された「グレイト・ジャズ・トリオ」での活動と並行していくつかのレーベルにリーダー作を録音しているが、どれも素晴らしい出来だ。特にフランスのBlack & Blueに吹き込んだ3枚のピアノ・トリオものは、ジョージ・ドゥヴィヴィエ(ベース)に加えてオリヴァー・ジャクソンあるいはアラン・ドウソン(ドラムス)という名手をサイドに従えたもので、まあ地味と言えば地味だが、一音一音に精気がみなぎっていてよく聞く。これはそのうちの一枚。ハンクが驚異的に「長持ち」したのはハーモニック・センスが異常に若々しかったからだと思うが、このアルバムでも2曲目あたりの幻想的なテーマ処理でそれが窺える。そして3曲目のような古い曲を、本来のテイストを保ちつつ、それでもカビ臭くなることなくサラッとソロ・ピアノで弾けたのは、おそらく当時でもハンクだけだっただろう(でも、そういえばスタンリー・カウエルもやってたな…)。

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2010-05-19 [長年日記]

_ [Jazz] Groovin' High / Hank Jones

グルーヴィン・ハイ(ハンク・ジョーンズ/サム・ジョーンズ/ミッキー・ローカー/サド・ジョーンズ/チャーリー・ラウズ)

死んだから聞くというのもひどい話だが、昨日からハンク・ジョーンズの作品のいくつかを携帯音楽プレーヤに落として聞いている。元々ハンクは平均点の高い人ではあったが、とりわけ70年代の諸作は水準が高く、企画は適当でも何かしら聴きどころがある。

これは1978年のクインテット録音だが、あまり兄弟とは共演しなかったハンクにしては珍しく、弟のサド・ジョーンズがコルネットで加わっている。アレンジもサドが手がけたようで、Anthropologyのディソナントなヘッドやボサノヴァ調のSippin' At The Bell'sなど、いかにもサドらしいひねりまくった編曲がおもしろい。

ただ、本当の聴きどころはサド、ハンク、そしてドラムスのミッキー・ローカーというベース抜きの変則トリオによるタイトル曲だ。この編成、ハンク自身はかつてベニー・グッドマンのサイドマンをやっていたときに経験があったようだが、ベースがいないとピアノ(の特に左手)への負担が大きくなるので、凡百のピアニストではなかなか音楽の流れや緊張感を維持できない。もちろんハンクは、例によっていかにも昼飯前という感じにサラッとこなしている。すごいなあ。


2010-05-21 [長年日記]

_ [Jazz] Tiptoe Tapdance / Hank Jones

Tiptoe Tapdance(Hank Jones)

ミュージシャンの私生活にはあまり興味無いのだが(パーカーやマイルスといった、無視するにはあまりにも面白すぎる人生を送った人たちは除く)、ハンク・ジョーンズが亡くなって、生前の彼が普段どのような生活を送っていたのかが明らかになった。

ニューヨーク・タイムズの記事によると、近年のハンクは12フィート(4m弱)四方の小部屋を借りて独居していたそうだが、自室に閉じこもりがちで三食とも階下のダイナーから出前、昼夜を問わずヤマハの電子ピアノで練習していたらしい。もちろん隣人の邪魔をしないよう、ヘッドホン着用で。

グラミーも獲得し、あれだけの世界的名声を得た人にしてはえらい質素で求道的な生活のようにも見えるが、ようするに私生活のようなものはほとんどなかったのだろう。ステージに上がってピアノを弾くことが、彼の全てだったに違いない。91歳まで現役を続けられたのはその精進あればこそだろうし、また最期まで現役を続けたからこそ、ここまでの長命を保つことが出来たというところもあるのではないか。

ハンクは自室では主にクラシックを弾いていたようだが、たまにはジャズを弾くこともあっただろう。おそらくその際のソロ・ピアノは、この1978年録音のアルバムで聞けるようなものだったのではないかと思う。どうしようもなく地味だが上品な佳作で、特にアルバムを締めくくるLord, I Want To Be A Christian(讃美歌第二編173番)の美しさは筆舌に尽くしがたい。なんというか、祈りのようなものが込められているような気もする。


2010-05-23 [長年日記]

_ [Jazz] Star Highs / Warne Marsh

STAR HIGHS(WARNE MARSH QUARTET)

1987年の暮れ、出演中のクラブのステージ上で「Out Of Nowhere」を演奏中に倒れるという劇的としか言いようがない死を迎えたウォーン・マーシュは、好きな人はひたすら好きだし、嫌いな人はひたすら嫌いという、好みがはっきりと分かれる人だと思う。私はというと、好きは好きなんだが、なぜか体調によってはついて行けないことがたまにある。うねうねとマシュマロというかワタアメのごとくつかみどころのないソロ・フレーズ自体はいつ聞いても特に気にならないのだが(むしろ気持ち良い)、リズムへの独特のノリには、ついて行けるときと行けない時があるのだ。

とは言えこの1982年録音のアルバムなんかは誰がいつ聞いてもあまり違和感ないのではないかと思うが、その理由はたぶん安定感抜群のリズムセクションにあるのだろう。ハンク・ジョーンズ、ジョージ・ムラーツ、メル・ルイスという組み合わせは当たり前なようで割と珍しいはず(ベースとドラムスはたぶんメル・ルイス・オケの巡業でヨーロッパに来ていたんじゃないかと思うのだが、ピアノはなぜハンクだったのだろう?)だが、とにかくマーシュが何を仕掛けてきても全くペースを乱さずに平然と対応してしまうので、こちらは落ち着いて聞いていられるのである。マーシュはドラマーにメトロノームのごとき硬直したリズムキーピングを要求したことで悪名高いが、メルのようにきっちりリズムを堅固に維持しつつ多彩なおかずを取り混ぜて攻め込んでくる人なら、喜びこそすれ特に文句はなかったに違いない。個人芸では、「Moose The Mooche」でのハンクのソロが実に素晴らしい。


2010-05-24 [長年日記]

_ [Jazz] At Newport / Dizzy Gillespie

At Newport(Dizzy Gillespie)

脇目もふらず爆走するジャズというのがたまに無性に聞きたくなるのですが、そういうときにはこれが良い。冒頭のDizzy's Bluesがいきなりやばい。ビッグバンドと互角にガンガン(というかカンカン)張り合うウィントン・ケリーのピアノも良い。ケリーというと軽妙でおしゃれなピアニストというイメージが強いが、この人は尋常ならざる力強いタッチを持つピアノ弾きでもあった。

しかし、この1957年のニューポート・フェスほど、映像が残っていたらなあと思うライヴはない。たとえば3曲目、ディジーは一体何であそこまでアナウンスでピー・ウィー・ムーア(バリトンサックス)をプッシュしまくったのだろう。言葉を聞くだけでは事情がよく分からないのである。アナウンスそのものは、大仰な言葉で偉そうなことを言うくせに(ディジーが小馬鹿にしていた)白人バンドリーダーのスタン・ケントンやローレンス・ウェルクを褒める程度の見識しか無い白人ジャズ評論家の口調をからかったものなんじゃないかと思うのだが、しかしなぜピー・ウィー・ムーアだったのかは未だに謎のままである。風采がしょぼい人だったのかなあ。なお、実際のピー・ウィーはこういう人だったらしい。Mantecaの出だしで「I Never Go Back To Georgia」とチャントを繰り返すようになったのも確かこのライヴからだったような気がするが、ジョージア州で嫌なことでもあったんだろうか。南部巡業が失敗してビッグバンドを解散するはめになったこともあるディジーだけに、いかにもありそうな話ではあるが。


2010-05-31 [長年日記]

_ [Jazz] Blues Dream / Bill Frisell

ブルース・ドリーム(ビル・フリゼール)

このところ忙しくて完全にサボっていたcom-postのクロスレビューだが、久しぶりに参加した。他の同人の皆さんには大変なご迷惑をおかけして面目ない限りである。スイングジャーナルも無くなってしまったことだし、今後はcom-postでの新譜レビューにも力を入れていきたい。

さて、今月のお題はご覧の通りブラッド・メルドーの新譜「Highway Rider」だったのだが、お聞きになった方、いかがでしたかね。私はというと、レビューでも書いた通り、悪くはないんだけど(むしろ部分的には結構良いんだけど)、しかしメルドーってこんな「まとも」な奴だったっけ、というようなある種の困惑を感じた。大きなお世話といわれればそれまでですが…。変なところで引き合いに出して悪いが、パット・メセニーのある種の作品にも感じられる妙な「精神の健康さ」みたいなものが伝わってきて、正直に白状すれば私は苦手である。ただ、それは結局のところ好みの問題かとも思う。音楽的なレベルはとても高い。

ところで、メルドーのレビューを書きながらなんとなく対照項として思い浮かべていたのが、ビル・フリゼールのこの作品だった。ジャケットのデザインも(とりあえずアメリカの田舎のロードサイドという点では)似ているし、音楽のスタイルも大きなくくりで言えばまあ似ているし、そもそもフリゼールの頭の中に浮かんでいた情景自体は、メルドーのそれと大差無かったのではないか。だから違いは語り口にあって、ようするにフリゼールは音楽で情景を描写しようとしているのに対し、メルドーは音楽でストーリーを描写しているのではないかと思う。まあこれは好みの問題だけれど、私はストーリーは文章で描写したほうが良いと思っているので、どちらかと言えばフリゼールのやり口のほうに親近感がある。明確なストーリーが存在しないかわり、そこはリスナーの想像力に完全に任されているというわけだ。

まあそんな御託はともかく、この作品は(例によって地味だが)フリゼールの知られざる傑作だと思う。

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_ 後藤雅洋 [確かに「情景描写」と「ストーリー描写」は違うよね。私も「ストーリー描写」は苦手です。ところで、フリゼールのこのアルバ..]