My Human Gets Me Blues

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2011-12-30

_ [Jazz] R.I.P. Odell Brown, 1940-2011

今年はオサマ・ビンラディンから金正日に至るまでさまざまな有名人が亡くなったが、そんな中、5月3日にオーデル・ブラウンがひっそりと亡くなっていたことに気づいた。世間的には無名な人だし全然話題にもならないが、個人的には五指に入るくらい好きなオルガン奏者だったのでちょっと残念である。といっても、ここ20年くらい全く音沙汰がなかったのだが…。

メロウ・イエロー(オーデル・ブラウン/ルイス・サターフィールド/トミー・パービス/アーティ・デューク/ペイン/カーティス・プリンス/マスター・ヘンリー・ギブソン)

ブラウンと言うととりあえず挙げられるのが「オーデル・ブラウン&ジ・オルガナイザーズ」名義の作品で、例えば1967年に出たこのMellow Yellowはビルボードで173位に達するなど結構なヒットになったらしい。こりゃ売れるでしょうなという感じの軽快でポップな(そしてちょっと今となってはややダサい)演奏がてんこもりで、ドノヴァンのヒットをオリジナルの発表間もなくカバーしたタイトル曲も、定番のマシュ・ケ・ナダも最高のできばえだ。ブラウンのオルガンは、とにかく呆れるくらいに流ちょうでフレーズが歌いまくるところに特長(?)があるのだが、この耳馴染みの良さ、聞いていてラクな感じは、どことなくクレイジーケンバンドを想起させるものがある。ヘンリー・ギヴスンのコンガも例によってキレ味抜群だ。

ダッキー(オーデル・ブラウン/オルガナイザーズ/オーデル・ブラウン&オルガナイザーズ)

ジ・オルガナイザーズの売り物はその折々のヒット曲のパクリカバーと2サックス編成だったようで、これは1968年のDuckyでも踏襲される。これがまたやたらに親しみやすい作品で、バカラック・ナンバーのThe Look Of Loveとか、マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルのAin't No Mountain High Enoughとか、もうなんだかよく分からないが、歌の無い歌謡曲路線というか、恥も外聞もない選曲でとにかく最高潮である。ゲスト参加のフィル・アップチャーチの太いベースも良い。それにしても、サックスがユニゾンでハモるのって気持ちいいっすねえ。とはいえ、せっかく売れ線を狙ったのに意に反してよほど売れなかったのか、バンド内で何かもめたのか、オルガナイザーズ名義の作品はこれで終わってしまうのだが…。

ソウル・イン・ザ・ナイト(ソニー・スティット/バンキー・グリーン/オーデル・ブラウン/ブライス・ロバートソン/モーリス・ホワイト/ソニー・スティット&バンキー・グリーン)

なお、ブラウンはジ・オルガナイザーズ以外にもいくつか単身でサイドマン仕事を手がけているようだが、その中で特記すべきは(というか、私が聞いたことがあるのは)やはり、ソニー・スティットとバンキー・グリーンが(2アルト・サックスで!)共演したこのSoul In The Nightだろう。これは割と普通にジャズの隠れ名盤であって、特に4曲目のHome Stretchにおける、手と足(フット・ペダル)を存分に駆使したブラウンの大活躍はすごい。ブラウンがちゃんとした技量を備えたジャズ・オルガン奏者であることをはっきりと証明する一曲だ。他もバラードからムード歌謡までバラエティに富んだ曲調で大いに楽しめる。名人スティットはともかく若きバンキー・グリーンの頑張りが光るし、EWF結成前のモーリス・ホワイトが、なかなかかっこいいドラムスを叩いているのも思わぬ拾いもの。

アイ・ラヴ・エヴリ・リトル・シング・アバウト・ユー(オーデル・ブラウン)

この後のブラウンの活動は、アルバム・アーティストとしては完全に散発的なものになるのだが、一方で伴奏者兼アレンジャーとしてはマーヴィン・ゲイとの付き合いが深まったようで、彼のバックバンドでキーボードを弾くと共に、ゲイの生前最後の大ヒット曲となったSexual Healingの共作者に名を連ねたりもしている。そんな中、1974年にはたぶん最後のリーダー・アルバムとなるI Love Every Little Thing About Youを出すのだが、これがまたジャケの見栄えのしょぼさというかやる気の無さに反比例して死ぬほどメロウな作品で、実に素晴らしい。特に冒頭を飾って11分にも及ぶスティーヴィのあの名曲のカバーは、まさにブラウンの個性にぴったりのはまり具合だ。とはいえ、他の曲では当時の本業を反映してかブラウンはオルガンよりもエレピや生ピアノを弾く局面が多く、ちょっぴり残念ではあるが。

そんなわけで、ブラウンさん別に面識はないけれど、これまで素晴らしい音楽をありがとう。ゆっくりお休みください。マーヴィンの都合もあるので、天国か地獄かどちらかはよく分からないが、またあのあたりの人たちと甘酸っぱいビタースウィートな演奏をせっせと繰り広げていて欲しいものである。音楽を聴く喜びというのは、結局のところそのへんにしかないのだから。