My Human Gets Me Blues

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2007-10-21

_ [Reading] 個人的十二大小説

愛・蔵太さんyomoyomoさんを始め、みんなやっていてなんだか楽しそうなので混ぜてもらうことにした。私は大体一日1冊は本を読んでいるが(最近読んだ本)、最近はほとんどノンフィクションばかりだ。でも、昔は良く小説を読んでいた。

「世界」十大小説とか言うと話がでかすぎて私の手に余るので(「日本」でも手に余るが)、単に自分が、ページをめくるのももどかしく貪るように読んだという記憶があるものだけを10冊選んだ。文学史上の重要性よりも、読者の首根っこを掴んで小説世界に引きずり込む力、ストーリーテリングに傑出したものを優先した。ようは読んで面白くてナンボということだ。かなり偏った好みであることは承知しているが、ただ面白いだけではない、表現としての強度も充分に備えているもので、かつ再読再々読に耐えるものばかりだと自負している。といっても今たまたま思いだした10冊というだけのことなので、他にもあったはずだが(というかスティーヴン・キングが抜けていることに後で気づいた)、まあこんなものしょせんお遊びなのでしょうがない。あと、すでに他の人が挙げているものはできるだけ外した。

後で数え直したら、実は12冊リストアップしていたようだ。もったいないからそのまま。あと、驚いたことに今では全部文庫で手に入る。

_ [Reading] 吾輩は猫である / 夏目漱石

吾輩は猫である (岩波文庫)(夏目 漱石)

漱石は神棚に祭り上げられて久しいが、この話は(ゲラゲラ笑えると言う意味で)めちゃくちゃ面白い。我ながらうんざりするほど読み返している。文明批判とか明治の社会がどうしたとかその手のゴタクはどうでも良い。落語的センスと言われることもあるが、個人的には落語よりもスラップスティックなコントに近い乾いた質の笑いを感じる。寒月がヴァイオリンを買いに行くくだりなどはたまらん。

_ [Reading] 瘋癲老人日記 / 谷崎潤一郎

瘋癲老人日記 (中公文庫)(谷崎 潤一郎)

古今東西で完璧な小説というものを一つ挙げるとしたら、おそらくこれは真っ先に候補にあがるべきものだと思う。もうすごいのよ。死んでもいいから(というか事実死にかけている)嫁の足を我が物としたいという77歳のどうしようもないジジイの話なのだが、圧倒的な筆力でぐいぐい読ませる。60年代当時の風俗描写も鋭い。書いたとき谷崎は75歳。しかも高血圧で手が利かず口述筆記という有様だったと言うが、鱧ばかり食うと精がつくのだろうか。

_ [Reading] 虚航船団 / 筒井康隆

虚航船団 (新潮文庫)(筒井 康隆)

いきなり時代が飛ぶ。近年の役者としての筒井はかなりやばいと思うし、小説家としてもいかんせん旬を過ぎた(現在の能力という意味でも、過去の作品の評価という意味でも)と思うが、でもこれを書いたのだから以って瞑すべしとも思う。最後の1行ですべてが救われる。しっちゃかめっちゃかな話を、ずばぬけた構成力というか、最後は腕力でまとめあげたという印象。英訳したら海外でも相当評価されると思うのだが(もうあるのかな?)。

_ [Reading] 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド / 村上春樹

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)(村上 春樹)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)(村上 春樹)

今あらためて読むとまた違った感興を覚えるのかもしれないが、これも初めて読んだときには、何よりも読み物として面白くて、相当な大部であるにも関わらず途中で止められなかった。最後の決断のわけの分からなさも含めて全体としては奇跡的なバランスを保った、おそらくは村上の最高傑作なのだろうと思う。というのも、率直に言って以降の村上の作品からは、この作品以上の読後の満足感というかカタルシスのようなものを得られた試しがないからだ。

_ [Reading] さようなら、ギャングたち / 高橋源一郎

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)(高橋 源一郎)

これもうんざりするほど読み返している。ご多分に漏れず私もキャラウェイのところが好きだが、最後ギャングたちが皆死んでしまったあとの話の持って行き方も完璧だ。個々のフレーズが喚起するイメージ間の微かなつながりだけを頼りに、多様な読みを許しつつも物語に強力な推進力を与えていく手つきは他に類を見ない。高橋にしても結局これが最高傑作で、あとは『虹の彼方に』(特に「戻っておいで『カール・マルクス』」)がそれなりに優れているが、他は正直に言って今ひとつだと思う。

_ [Reading] 阿修羅ガール / 舞城王太郎

阿修羅ガール (新潮文庫)(舞城 王太郎)

ここ数年読んだ中では、舞城のこの作品が最も強烈な読後のカタルシスを与えてくれた。文体が寄り添うリズムがとにかく素晴らしい。ひどい話なのだが一気に読めて、後には爽快な気分が残る(どっと疲れもするけれど)。どこまで話を下品で残酷な方向に持っていっても、ストーリーが内包する切実さが話の品位をある水準につなぎ止めている。覆面作家ということでどういう人なのかは知らないが、おそらく基礎体力としての教養が圧倒的なのだろう。そもそも文章に全く違和感を持たずに読めるのは、最近の作家では珍しい。

_ [Reading] 千夜一夜物語 バートン版 全11巻

千夜一夜物語 バートン版 全11巻

日本の小説を56冊挙げたので、後は海外のを。なぜか古い版が家にあったので、これも小さいときから良く読んでいた。当然エロいところやエグいところはとりわけ熱心に熟読玩味した。かったるいところも含めて私は大好きだ。私はこれさえあれば当分退屈しない(実際、海外に行くときは大体1冊は持っていく)。大場正史の訳も素晴らしい。

_ [Reading] ポオ小説全集 IV / エドガー・アラン・ポオ

ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)(エドガー・アラン・ポオ/丸谷 才一)

これも死ぬほど良く読んだ。ポオは何度読んでも面白い。特にこの巻の充実ぶりは異常で、「黄金虫」「黒猫」「長方形の箱」「不条理の天使」「『お前が犯人だ』」「ウィサヒコンの朝」「シェヘラザーデの千二夜の物語」「ミイラとの論争」「天邪鬼」「タール博士とフェザー教授の療法」「ヴァルドマアル氏の病症の真相」「盗まれた手紙」「アモンティリャアドの酒樽」「アルンハイムの地所」「メロンタ・タウタ」「跳び蛙」「×だらけの社説」「フォン・ケンペレンと彼の発見」「ランダーの別荘」「スフィンクス」「暗号論」、思わずタイトルを全部書き出してみたがどう考えても全部が全部傑作である。普通こんなことはあり得ない。個人的には「×だらけの社説」が(野崎孝のアクロバティックな名訳も含めて)最高だと思う。

_ [Reading] 木曜の男 / G.K.チェスタトン

木曜の男 (創元推理文庫 101-6)(G.K.チェスタトン/吉田 健一)

筋としてはなんだかわけの分からない話だが、とにかく文章に強烈なスピード感があるのでこれまたぐいぐいと読まされてしまう。タネが分かっていてもずっと強烈な不安感に苛まれるあたりがたまらない。こうした生理的な気持ち良さ(?)があるのでついつい手にとってしまう。ブラウン神父ものも良く読んだが、愛着があるのはこっちだな。チェスタトンはエッセイも好きでよく読んだ。考え方にも影響を受けているかもしれない。

_ [Reading] ヒューマン・ファクター / グレアム・グリーン

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)(グレアム グリーン/Graham Greene/加賀山 卓朗)

これは小説というか、ストーリーテリングの一つの極致だと思う。とにかく読ませる。最初はじわじわと、途中からは一気に話を展開して、伏線にも全部落とし前を付けつつ救いのないラストまで読者を飽きさせない。Mercy, Mercy, Mercy! Live at 'The Club'(Cannonball Adderley Quintet)のキャノンボールのMCではないが、なんというか、人間どうしようもない状況に追い込まれるということはあるものだ。ベストを尽くして、正義を完遂しようとして、結果として悪行を犯すということがある。分からない奴には一生分からないのだが、どうしようもないことというのは、本当に当人にはどうしようもないことなのだ。そういうとき、神の慈悲にすがる以外にどうすべきか。あるいは何ができるのか。最後はかなり泣ける。私は小説家になろうと思ったことはないが、もし書くのだったらこういうものが書きたい。

_ [Reading] 流れよわが涙、と警官は言った / フィリップ・K・ディック

流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)(友枝 康子/フィリップ・K・ディック)

別に『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』でもいいのだが、やはり最初読んだときのインパクトはこちらのほうが大きかったような覚えがある。負け犬ディックを褒めるのはなんだかイヤなのだが、これはある種の同族嫌悪のようなものだろう。ただ、ここで挙げた二作はディックにしてはポジティヴというか、作り物でない温かさが心に食い込んでくる傑作だと思う。

_ [Reading] キャッチ=22 / ジョーゼフ・ヘラー

キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)(ジョーゼフ・ヘラー/飛田 茂雄)

こういうのは眠いときに書くもんじゃないですね。実は11個しかなかったことに後から気づいたのでもう一つ追加。日本編で舞城を挙げたので、海外編も最近の人を挙げたかったのだが、正直最近の海外の小説で面白いと思ったものがない(そもそも余り読んでいないので元来こういうことを言う資格も無いのだが)。最初のセレクトで抜けていたキングのシャイニング(上)シャイニング(下)でお茶を濁そうかとも思ったが、まあせっかくなのでここは自分の好みに殉じることにした。余りに理性的過ぎて完全に狂っている世界が私は大好きだ。