My Human Gets Me Blues

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2003-09-27 いよいよ疲労困憊

_ [Sun Ra] Sun Ra講演@四谷いーぐるの顛末

準備不足(および寝不足)のため微妙に支離滅裂だったような気がしますが、土曜日の14:30から(しかも2時間以上ぶっつづけ)という変な時間帯にもかかわらず多くの方にお越しいただき、ありがとうございました。以下、話した内容の補足。

Sun Raは基本的にスイング時代に音楽家としての自己を形成した人(年齢的にもバッパーとは一回り違う)ですし、1960年まで地方都市のシカゴを拠点としていたこともあって、ビバップ以降のジャズはラジオやレコードから吸収、言い替えれば「勉強」したんだろうと思います(その痕跡は初期の音源を時系列順に聞いていくといくつも見付かる)。また、その時々の流行の音楽を取り込むことにも極めて積極的でした。Arkestraの面々がバイトでR&BやBlue Note録音を含む様々なセッションに顔を出しているので、おそらくそういうあたりからもいろいろなアイデアを得ていたんでしょう。裏を返せば、そんなに独創的・革新的なことをした人ではありません。だいたい、ビバップ以降にビッグバンドを率いるというのはアナクロニズムの極致だし。そこまではいいんですが、基本的にアレンジやその他の手法をきちんと真似ているのに、出てきたものがなぜかSun Ra風味になっているというのがこのひとのおもしろいところで、また私が一番魅力を感じるところでもあります。

_ [Sun Ra] Greatest Hits: Easy Listening for Intergalactic Travel / Sun Ra and his Arkestra

Greatest Hits: Easy Listening for Intergalactic Travel / Sun Ra and his Arkestra Sun Ra において「グレイテスト・ヒッツ」というものが成立しうるか否かに関しては議論の余地があるような気がしないでもないわけですが、ともかく入門編としては素晴らしい一枚。Sun Raの自主レーベル Saturn の音源を片っ端からリイシューしている Evidence レーベル社主の Jerry Gordon が自ら選曲、ライナーまで書いていて、どうもこの親父ちょっとおかしいんじゃないかという雰囲気が濃厚に漂います(Jerry Gordonのインタビューはここ)。とはいえ Saturn 音源のおいしいところはだいたい網羅されていておすすめ。ちなみにここでのゲテモノはラストのThe Perfect Man。ニーンニンニンニーンという妙なシンセベースの音でなごみまくりです。

_ [Sun Ra] Live At Montreux / Sun Ra and his Cosmo Swing Arkestra

Live At Montreux / Sun Ra and his Cosmo Swing Arkestra 1976年モントルーでのライヴ。二枚組ですが、特に二枚目は「ふつうのジャズ」に近いのでSun Raになじみの無い方でも聞きやすいんじゃないでしょうか。超猛スピードで有名なTake the A Trainはこれに入っています。ちなみにリンクを張ったのは輸入盤ですが、輸入盤は一枚目が4分くらい欠けているのでP-Vineから出た日本盤を探したほうが良いでしょう。Tony Williamsと同時期にAlan Dawsonの弟子だったのにあまりそういう文脈では名前が出てこない(破門された?)Clifford Jarvisが奮闘しているのも聞き所。

_ [Sun Ra] Live in Paris at the Gibus / Sun Ra and his Intergalactic Research Arkestra

Live in Paris at the Gibus / Sun Ra and his Intergalactic Research Arkestra 講演では3曲目から4曲目をかけましたが、全体的に上出来のライヴ。1曲目は大昔いとうせいこうがサンプリングのネタにしていました(MESS/AGE)。2曲目の叙情味も捨てがたい魅力。さんざんフリーでいたぶられて、直後に猛烈にスイングするKing Porter Stompをかまされるとかなりやられます。

ちなみにこのコンサートの後、Arkestra草創期からレギュラーおよび優れた作曲家として貢献してきたRonnie Boykins(ESPに一枚リーダー作あり)が御大と喧嘩して袂を分かちます。若死しましたが素晴らしいベーシストで、この人がいるといないとでバンドの安定感が全然違うのがすごい。あとこの時はIntergalactic Research Arkestraなのでした。メンバが変わるごとに律義にArkestraの前につく修飾節を変えているあたり、真面目におかしいSun Raの本領発揮とでも言うべきか。

_ [Sun Ra] Fate in a Pleasant Mood / When Sun Comes Out

Fate in a Pleasant Mood / When Sun Comes Out 1956年から1960年にかけてのシカゴ時代の録音にはほぼはずれがないのですが、中でもこのカップリングは楽曲のバリエーションといい、アレンジの質といい申し分がありません。講演でかけたもの以外にも、たぶん(そのころ流行っていた)ボサノバをやりたかったんだろうと推測されるBrazilian SunやSun Ra名物のいわゆるSpace Chantの代表格We Travel the Spacewaysなど聞き所満載。このあたりはEvidenceからCDが佃煮にするほど出ているので適当に買ってお試しあれ。

_ [Sun Ra] Angels & Demons at Play/The Nubians of Plutonia

Angels & Demons at Play/The Nubians of Plutonia ジャケットが秀逸。中身もこの時期なので悪いはずがない。ちなみに講演でかけたA Call for All DemonsはSun Song(P-Vineから出た日本盤は菊池成孔さんが解説を書いている)でもやっているので興味があったら聞き比べてみてください。

_ [Sun Ra] Solo Piano Recital: Teatro La Fenice Venizia / Sun Ra

Solo Piano Recital: Teatro La Fenice Venizia / Sun Ra Amazonでは近日発売予定となっているのにDisk Unionなどではもう出回っているというのが謎ですが、1500枚限定なので欲しい人はユニオンに走るべし。録音が今一つですがソロのライヴは数少ないので貴重です。

_ [Sun Ra] Nuclear War / Sun Ra and his Outer Space Arkestra

Nuclear War / Sun Ra and his Outer Space Arkestra 講演でかけたのは冒頭の曲ですが、残りはエリントン・ナンバーなどまあふつうのジャズ(かなりかったるい)なので、フォービート原理主義者でもそんなに拒否反応は起こさないでしょう。アルバム最後を締めるSmileで、Arkestraの歌姫June Tysonが切々と歌っているのが泣ける。

_ [Sun Ra] It Is Forbidden / Sun Ra and his Intergalactic Arkestra at the Ann Arbor Blues & Jazz Festival in Exile 1974

It Is Forbidden / Sun Ra and his Intergalactic Arkestra at the Ann Arbor Blues & Jazz Festival in Exile 1974 これが最後にかけた1974年の暴走ライヴ。いいから黙って買え。そして聞いて泣け。John Sinclair(The Beatlesも曲を捧げたAnn Arbor Festivalの仕掛け人)が書いたライナーも必見。

とはいえ、Sun Raにしてもこのテンションは異常なので、もう少し平均的というか普段着のライヴを聞きたい向きは1984年ギリシャでのライヴLive At Praxis '84(CDなら二枚組)を探すとよいでしょう。緊張感こそないが温かい祝祭的雰囲気に包まれた楽しい音楽です。しかし生で見たかったなあ。

本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]

_ TrackBack [http://studio-oice.cocolog-nifty.com/yutalog/2004/09/live_..]


2006-09-27

_ [Reading] My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド / Chad Fowler

My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド(Chad Fowler/でびあんぐる)

監訳した本その1。手元にはずいぶん前に献本が来ていたのと、最近いわゆる普通の本屋に行かないのとでよく事情が分からないのですが、たぶん本来は今日書店店頭に並ぶということになっているのではないかと思います(Amazon.co.jpの発売日も昨日だし)。インドとか中国とかが安くて優秀な人材を武器に猛追する中、今後先進国で高給取りなプログラマたる皆さんが生き延びるにはどうしたらよいかを具体的に説いた、まあ言ってしまえばハウツー本です。薄くて高いけど中身は面白いのでよかったらこうてや。章立ても細かいので読みやすいと思います。個人的には、著者が元ジャズミュージシャンというところに親近感を持てた(昔ピテカンの増井さんに話して笑われたけれど、私はいつもハッカーをジャズマンとの対比で考えている)。ブロガーワナビーは37.か38.を読んでみな。

個人的な実感として、先月この本の一部の舞台であるバンガロールまではるばる行ってきたのだが、まあなんと言いますか、ダメなところはいくつも見えて、これならまだ大丈夫かなと思う半面、レストランや雑貨屋と同じ頻度で「Software Company」の小さな看板が街中に溢れているのには呆然としてしまった。もちろん連中が今何ができるかと言えば、それこそ著者が面接したような(そして私も何人か会うことができた)ベストアンドブライテストな一握りは別として、正直それほど大したものではないと思う。でも、彼らは必ず私たちに追い付く。残された猶予は5年も無いんじゃないですかね。

_ [Reading] Ship It! ソフトウェアプロジェクト 成功のための達人式ガイドブック / Jared Richardson & William Gwaltney Jr.

Ship It! ソフトウェアプロジェクト 成功のための達人式ガイドブック(Jared Richardson/William Gwaltney Jr./でびあんぐる)

監訳したのをもう一冊。こっちはずいぶん前にもう出ていたのだが、紹介しそびれていた。例によって薄くて高いけど中身は面白いので(こればかりやな)よかったらこうてや。なんと言いますか、最近の流行もの(CVSとかSubversionとかWikiとか)を、じゃあ具体的にどう開発プロセスに入れるのよという疑問に答えた本です。単に便利そうなツールをばらばらと導入するだけではダメで(最近Wikiはあんまり仕事の役に立っていないという話もあったよね)、仕事のやり方自体も工夫しないとねというのが話の骨子。

こっちの序文は私が書いたのだが、内容について言いたいことはそこで簡単に述べたので読んでくだされば幸い。個人的には、日本でこの本で主張されるようなプロジェクト・マネジメントを実際に導入した企業があれば、その後どうなったか、効果のほどや苦心談などぜひお話を伺いたいと思っている。ご一報ください。

_ [GNU] GPLv3 ディスカッションドラフト2の訳

ということで出しました。Rationaleはもう少しお待ちを。


2011-09-27

_ [Jazz] The Last From Lennie's / Jaki Byard

Last From Lennie's(Jaki Byard/Joe Farrell)

ジャズの世界で器用貧乏と言えば、ジャキ・バイアードの右に出るものはいない。ピアニストが本業で圧倒的なテクニックを有しているが、ピアノ以外にサックスからトランペットまでプロ並みに吹く。ピアノ・スタイル的にも、ラグタイムからフリーまで何でもこなす。ちょっと聞けば誰でもジャキのピアノだと分かる、かなり強烈な個性もある。聞くたびにつくづくうまいなあとは思うのである。しかし、にも関わらず、少なくとも個人的には、ジャキの演奏を聴いて心が根底から揺さぶれたという経験は無い。ミンガスの60年代の録音(特に64年のドルフィー入りヨーロッパ・ツアーの音源)を追いかけると必然的にジャキの演奏と多く接することになるのだが、ここまで何でも出来るのに、聞いた後ここまで何も残らない人というのも珍しいように思う。

しかし、にも関わらず、私はジャキという人が結構好きである。私もピアノを弾くので、ジャキの実力の尋常でない高さが身にしみて分かるというのもあるけれど、何でも手を出すが全ての分野で一流半、みたいな在り方にどこかシンパシーを感じてしまうのだ。

これは1965年のライヴ録音で、元々Live!(Jaki Byard Quartet)として出ていたものの未発表残りテイクを集めたもの。バイアードと並ぶジャズの器用貧乏王ジョー・ファレルを迎えたカルテットの演奏で、なんというか、通して聞くと相当お腹いっぱいになる重量級のジャズである。しかし演奏している人たちが全員超が付くテクニシャンなので、全く胃もたれしない。

このところ忙しくて音楽を聴くどころではなかったのだが、こういうのを聞くと、やはりジャズはいいなあ、としみじみ思うのだった。