はじめに

オバマ元大統領がユニボール・ビジョンエリートというペンを愛用している、という話がニュースになるたびに、むかし本ブログでビジョンエリートを取り上げた記事にも結構な数のアクセスが来るので驚かされる。

ビジョンエリートはローラーボール(水性ボールペン)の一種だが、そもそも日本ではローラーボールの知名度が低いように思われる。私自身は長いことローラーボールを愛用していて、日本でももっとユーザが増えるといいなと思っているので、俯瞰的な紹介を書いてみることにした。

ローラーボールの特長

水性と油性

ローラーボールは日本では水性ボールペンと呼ばれているが、何が水性かといえば、インクが水性なのである。インクは色素を何かに溶かしているわけだが、その溶かす相手が有機溶剤なら油性、水なら水性ということになる。ちなみにゲルインクもフリクションのインクも結局は水に溶かしている(らしい)ので水性の一種とされる。

一般に、油性インクのほうが粘度が高く、水性インクのほうが低い。ゆえにしばらく前までは、油性ボールペンと違って書き出しがかすれず、あまり力を入れなくても鮮やかな発色でなめらかに書ける、というのがローラーボールの売りだった。

こうした状況は近年大きく変わった。油性でもジェットストリームに代表されるような低粘度の新油性インクというのが普及し、なめらかな書き味が当たり前となったし、水性は水性で、耐水性や速乾性、にじみの点で油性に劣るとされてきたのだが、そのあたりを改善したのがゲルインクである。

ということで、冷静に考えるとローラーボールの技術的優位性のようなものは現在ではほとんど無くなってしまい、あらかたゲルインクに市場を食われてしまっているのだが、それでも水性ならではの書き味というのは依然としてある。ゲルインクは油性ほどではないにせよ粘度が高いので、純粋な水性とはちょっと感触が違う。 サラサラクッキリ紙面を滑るような書き味 が水性ボールペン独特の魅力で、まあトラブルも多いし万人向けとは言いがたいものの、いったんはまるとなかなか抜けられないのである。

なお、水性ボールペンの字幅は大体嘘ばっかりなので注意が必要だ。例えば0.5mmとあったらそれは大体0.7mmくらいなことが多く、細字と言うなら中字ないし太字相当と思って買ったほうがよい。

多くがキャップ式

厳密にはローラーボールの特性ではないが、ローラーボールは水性インクのせいかペン先が乾きやすいとされていて、多くはノック式ではなくキャップ式である。ノックと比べてキャップを開ける一手間が増えるが、ペン先が固定されているのでぐらつきにくく、ストレスフリーに筆記できるというメリットもある。もっとも最近では耐乾性の替え芯も開発されていて、ノック式のローラーボールも存在するのだが…。

直液式と中綿式

水性ボールペンを大雑把に分けると直液式と中綿式の2種類になる。インクを液体のままペン軸に入れているのが直液式で、インクを綿やスポンジにしみこませて替え芯に内蔵しているのが中綿式だ。例えば先出のビジョンエリートは直液式なので、軸の中でインクがチャプチャプ動くのが見える。

水性らしさが全開なのは直液式で、私自身もどちらかといえば直液式を好む。インクが豊富に出るのでかすれ知らずだが、その反面、紙が薄いと往々にして裏抜けしてしまう。中綿式も悪くはないが、何というか、インクを「置く」ような感触がある。こちらも独特の書き味である。欧米でよくある高級ローラーボールのリフィルは大体中綿式。

樹脂ペン先

ただでさえニッチなローラーボールの、さらにニッチなサブジャンルが樹脂ペン先のボールペンだ。通常ボールペンのペン先は金属で出来ているのだが、これが樹脂になっているものがあって、これまた非常に独特な書き味を獲得している。私はこうした樹脂ペン先のペンが大好きなのだが、詳しくは昔書いた記事を参照。

代表的なローラーボール

順不同というか思いついた順である。

パイロット

パイロットのローラーボールと言えばVコーンである。直液式の代表格で、とりあえずローラーボールなるものを体験してみたいという人にはこれを勧める。ただしデザインがダサい。なお去年(2020年)突然ノック式のVコーンノックが登場して世間(たぶん10人くらい)を驚倒させたが、悪くはないけど、水性らしさという意味ではちょっと性格が違うペンのような気がするな…。

ユニボール(三菱鉛筆)

オバマでおなじみビジョンエリートを擁していたユニボールというか三菱鉛筆だが、ビジョンエリートは日本でも世界でももはや廃番のようだ。ビジョンエリートのブルーブラックが良かったんだけどな…。昔はプロテックというのもあったのだがもう流通在庫のみのようで、今も作っているのはこのユニボールアイだけのようだ。これもVコーンと双璧を成す直液式の雄で、デザインがいかにも事務用品然というか、Vコーンとは違った方向でダサいのも共通している。書き味はビジョンエリートと良く似ている。また、ペン先が金属ではなく樹脂で独特の書き味を持つユニボールエアというのもある。

トンボ

トンボの水性ボールペンも直液式で、これまたやたらにインクが出る。若干出過ぎなくらいである。Vコーン等のような使い捨てではなく替え芯式なので様々な軸があるが、定番はZOOM505のハバナだろうか。値段の割に高級感のある軸で、絶妙な太さと相まって非常に書きやすい。プロの物書きでこれを使っている人を何人か知っているが、これもローラーボール最初の一本として勧められる。

トンボZOOMの軸は505の発展系?の535とかカーボンファイバー&ジュラルミンで超軽量な101とか、今や伝説と化した2000とか、ピーキーで先鋭的でかつ実用性も高いデザインのものが多かったのだが、大体廃番のようで残念。日本がだんだん貧乏になっているのと歩調を合わせているようで悲しいですね。

シュナイダー

ドイツのメーカー、シュナイダーは様々なローラーボールを出しているようだが、私にとってシュナイダーと言えば852である。この直液式で樹脂ペン先なカートリッジを入れたペンがいくつかあって、最も有名なのがベースボールだと思うが、人生一度は試してみる価値がある。詳しくは昔書いた記事を参照。樹脂ペン先のローラーボールでOne Businessというのもある。

あとまあ、これは趣味の世界だが、ぎんざ五十音信頼文具舗で扱っている高級鉛筆補助軸のミミックというのがあるんですけれども、これにゴムを巻いた852(このページの「ミミック対応RB替芯」というやつ)を装着すると、なんといいますか、官能的な書き心地が楽しめる。2万円くらいおこづかいがある人はやってみるとよい。

スタビロ

スタビロのバイオニックワーカーについては以前も書いたが、直液式でなかなかのローラーボールである。しかしこれに限らずローラーボールの弱点の一つは、まともな外見の軸が少ないということですよね…。

エルバンその他

ちょっと特殊なローラーボールとして、万年筆用のインクを入れるものがある。カートリッジにもコンバーターにも対応していることが多い。このエルバンのやカキモリのローラーボールが代表格的か。個人的には、この種のものは気密が悪いのかすぐペン先が乾いてしまう印象があり今ひとつなのだが、万年筆用インクには膨大な色の種類があるので、色にこだわる人なら試してみる価値はあるだろう。

オート(C-300系)

このあたりから中綿式である。中綿式のローラーボール・リフィルは大雑把に分ければC-300系、ヨーロッパ標準系、モンブランやパーカーなどそれ以外の独自規格という感じになるのだが、C-300系を開発したのが日本のメーカーOHTOだ。というか、そもそもローラーボールというものを1964年に発明したのがOHTOらしいのだが、その割に影が薄いのは、芯は優れているのにフラッグシップと言えるような軸が無いからなんでしょうねえ。

C-300を使ったローラーボールは、例えば万年筆で有名なPerikanのスーベーレーン(Rシリーズ)がそうなのだが、OHTO自身が出している軸だとリバティがおすすめである。1000円しないとは思えない質感で、書き味も抜群だし、しばらく使っているとそのうちグリップ部のゴム?から消毒剤みたいな臭いがしてくることを除けば、中綿式ローラーボール最初の一本としておすすめできる。

私はまだ持っていないのだが、どうも最近リバティは廃番になったらしく(細軸だけの名称になった?)、後継がセルサスのようだ。基本的に名前を変えて値上げしただけのように見えるが、ゴムは改良されたのかな?

あとは、よほど売れなかったのかあっという間に市場から消えてしまったノックローラー・オーというのが面白かった。後述のLAMY Swiftと並ぶ、 ノック式 の中綿式ローラーボールという珍しい存在である。見つけたら手に入れる価値はある。

ファーバーカステル(ヨーロッパ標準系)

ヨーロッパ標準とC-300は実は微妙に互換性があり、大体両方とも使えるのだが(カルティエのように、見た目はほとんどヨーロッパ標準のくせに微妙に寸法が違って入らないという嫌がらせのようなブランドもある)、それはさておき、ヨーロッパ標準リフィルを採用したファーバーカステルのベーシックも優れたローラーボールである。

昔は木軸とか革巻きの軸もあって良かったのだが、もう廃番なのかな。日本では買えないのだが、海外だとLoomというシリーズもあって、そちらのほうがどちらかといえばおすすめ。もちろん、金に糸目を付けないなら高級軸は他にいくらでもあります。

ラミー

LAMYにはローラーボールの系統がいくつかあって、普通はLM63という替え芯なのだが(Safariとかのローラーボール替え芯はこちら)、個人的にはLM66を使った軸を好んで使っている。具体的にはLAMY SwiftLAMY Tipo、あるいはLAMY Dialog 2のラインである。キャップレスでも乾かないという珍しいローラーボール芯なので、Swiftなんかは昔からノック式なんですよね。くせが強く好き嫌いが分かれる芯だが、私は好んで使っていて、殴り書きにはこれ一択である。LAMYのローラーボールについては昔書いた記事も参照。

シュミット8126

欧米には替え芯だけ作っているというメーカーがあって、その一つがシュミットである。洋物の高級ローラーボールはシュミットのリフィルを採用しているところが多い(油性のイージーフローも有名)。シュミットはヨーロッパ標準(588系)も作っているが、独自規格のリフィルも作っていて、代表的なのが8126である。キャップをしなくてもインクが(しばらく)乾かないという高機能リフィルだが、自身は今は亡きイタリアのメーカー、オマスのローラーボールを持っている。そのあたりについては、リフィルの入手法も含めて昔のブログ記事で書いた。

ぺんてる

ぺんてるはかつてローリングライターという高級水性ボールペンを出していたようだが、今はボールPentel一本のようだ。これは樹脂ペン先の特異なローラーボールで、なんとも曰く言いがたい書き味を持つ。私はボールPentelが大好きなのだが、そのあたりの話は昔のブログ記事でこってりと書いた。