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景山民夫の「トラブル・バスター」

最近話題のフジテレビのスキャンダルは、中居正広という有名芸能人による性加害という事件そのものもひどい話だが、調査報告書では、自社社員である女性アナウンサーが襲われたにもかかわらず(特に上層部が)雑で無神経な対応に終始し、他にもセクハラ、パワハラの類が横行していたフジテレビの組織文化の問題が赤裸々に暴露されていて興味深かった。

逆に言えばお金の管理とかも含めてあの調子でなんとかなっていた時代というのもおそらくあったわけで、1980年代末から90年代にかけての昔のテレビ全盛期の雰囲気を伝える一種のドキュメントとして思い出したのがこの「トラブル・バスター」シリーズである。三つ子の魂百までというけれど、知識は増えても感覚は20代くらいで固まってしまうものだ。フジテレビの経営陣は大体が6~70歳くらいの男性のようだから、40年前の若き日の彼らがどういう環境で育ったのかを知るよすがになるように思う。意思決定層を同質のオールド・ボーイズ・クラブで固めてしまう危険性、というのも浮き彫りになるだろう。

内容はと言うと、架空のテレビ局、関東テレビで窓際に追いやられているが、実はテレビの裏側で起こる揉め事を処理する「トラブル・バスター」として活躍する元ディレクター、宇賀神邦彦が主人公の小説で、もちろんフィクションなので創作や誇張はあるだろうが、著者の景山民夫は元売れっ子放送作家でテレビ番組にも多く出演していたので、多くの話は元ネタがあるのではないかと思われる。宇賀神も上司の田所局長も、モデルとなった実在の人物がいるようだ。最初の2冊は短編の連作、その後2冊長編も出て、漫画や映画にもなったらしいが私は小説以外は見たことがない。結局最初のほうの短編が一番面白いように思う。

景山民夫は直木賞も取ったし一時はテレビで顔を見ない日は無いというくらいに売れていたとおぼろげに記憶しているが、そもそも早逝(1998年に50歳で事故死)で、かつ晩年は「幸福の科学」の熱心な信者というか広告塔のようになったので、今となっては触れにくいというか完全に忘れ去られているように思う。エッセイもそうだが、洋楽の曲名をタイトルにしたり、バタ臭い(という表現も今では通じないような気がするけれど)文体とスマートな筆致はなかなか読ませるものがある。

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