なぜ我々は戦うのか — 反イディオタリアン宣言

9月11日の恐るべき事件からの一年で、伝統的な政治的諸範疇の範囲内で活 動する思想家や政治家、活動家たちの大半が、愚かで道徳的に混乱しているこ とが暴露された。

左派は、自虐的な反アメリカニズムに屈し、テロリストの活動を擁護し、 道徳の等価性に関するみすぼらしい理論を提起し、悪の行為の責任をその被害 者に負わせることによって、我々を失望させてきた。

右派は、効果が無くしかも自由な社会の中心的な自由を脅かすに違いない 「反テロリスト」施策を推進し、そして場合によってはその発言において我々 の敵とほとんど同レベルの頑迷さにまで堕ちることによって、我々を失望させ てきた。

より知性的であることが期待されるリバータリアンでさえも、多くが幼稚 な孤立主義に逃げ込み、今度ばかりは国家の力を使って侵略者へ反撃すること のみが、我々の唯一の現実的な自己防衛の手段であるということを 認識しようとしない。

以上を鑑みて、我々はここに、以下の確信を反イディオタリアン的見解の 根拠として主張する。

  1. 西洋文明が、ならず者国家によってテロリストたちの手に渡った核兵 器や生物兵器、化学兵器による大量殺戮の幻影によって脅かされていること。

  2. テロリストたちと彼らを後援する諸国家は、西洋文明の悪徳に対して ではなく、その中核的な美徳に対して宣戦を布告し、戦争を遂行しているのだ ということ。すなわち、彼らは思想や言論、信教の自由に対して、理性的な生 活に対して、女性の平等、多元的共存主義と寛容さに対して、それどころか文 明化された人類と野蛮さや奴隷、狂信主義とを分けるすべての特質に対して戦 いを挑んでいるのだということ。

  3. テロリストにとっては、アメリカまたは西洋諸国による対外政策の修 正やパレスチナ人への譲歩、グローバリゼーションに反対する動き、世界の貧 困を緩和しようとする努力などは、付随的な関心事という以上のものではない ということ。

  4. テロリストたち自身が断言しているように、異教の地たる西洋がイス ラム教とシャリーア(イスラム法)を全面的に受け入れるという極端な譲歩をし ないかぎり、彼らの暴力を思いとどまらせるには至らないだろうということ。

  5. 先述した9月11日のテロリストたちは、何千もの無辜の人々を殺戮する ためには空飛ぶ爆弾として民間旅客機を利用することすらいとわないことを示 した。ゆえに、仮に将来に渡って大量破壊兵器がテロリストたちの手に入 らないとしても、我々がテロリストの悪意の及ぶ範囲を見くびれば、甚 だしい道徳的怠慢という誹りを免れないだろうということ。

  6. 今までに判明している信頼できる証拠から見て、テロリストたちは、 彼らが残虐行為を起こす能力を千倍にも高めてしまうであろう兵器の開発と引 き渡しについて盛んに計画を推進していることが知られている、イラクやイラ ン、北朝鮮といったならず者国家との同盟を求めているということ。

  7. サダム・フセインは核兵器を開発しようとしていることが知られてお り、自国民に対して化学兵器を用いたことすらある。彼は平和な隣国へ攻撃を 仕掛けることをいとわず、またパレスチナやその他の地域におけるイスラム教 徒テロネットワークとつながっていることが知られている。以上で示された事 実から、テロリストと共に、サダム・フセインが、特に明白でかつ当面の脅威 となっていること。

我々はここに、テロリストと彼らを後援する国家の両者が、自らを人類の 道徳的共同体から追放したということ、そして彼らには狂犬と同様の扱いをす るということを宣言する。

加えて我々は、イスラム原理主義テロリズムの「根本原因」はテロを煽る イスラム原理主義者の政治的・宗教的理念であり、他にいかなる重要な原因も ないということ、そして対テロ戦争の中心目的はこういった扇動的理念を除去 し、失墜させることでなければならないということを断言する。

我々は、言論の自由や平和的な集会の自由、自己防衛のための武器携帯の 権利への制限を強化することにより、テロリストの破壊行為を効果的に防止す ることができるという論を却下する。これは我々自身の側の最も信頼に値しな い分子によるお手盛りの権力掌握に他ならない。また我々は、例えば国民IDカー ドの強制や公共空間を空港と同じように監視するなどといった警察国家的手段 を断固として拒否する。

戦争状態は個々の人間と社会の両方にとって最悪の事態をもたらすという ことは重々承知しつつも、我々は世界の野蛮人どもに暴力をふるう排他的な特 権を引き渡すような代替策を拒否する。

我々は、アメリカ合衆国とその同盟諸国、そして西洋全体が、イスラム原 理主義テロネットワークの個々のメンバーを追跡し、捕縛し、あるいは殺害す ることを支持する。

我々は、当面の脅威を緩和し、同時に我々との死闘を覚悟させることによっ て将来的な国家的テロリズム支援を思いとどまらせる手段として、テロリズム を支援するならず者国家に対してアメリカ軍および連合軍が迅速に行動を取る ことを支持する。

我々は、軍隊と警察がどこにでも居合わせることはできないし、また そうすべきではないという事実認識に鑑み、航空パイロットの武装や、 テロリストの攻撃に対し一般市民が有効な武力によって立ち向かう権利と義務 を認識することなど、分散した脅威に分散した対応で当たろうとする努力を支 持する。

我々は、将来西洋が核兵器/化学兵器/生物兵器によって脅迫されるよりは はるかに望ましい代替策として、イラクやその他テロリズムを後援し、しかも 大量殺戮兵器を所有している国家の政府を強制的に転覆させることを支持する。 また、これらの国々を、テロリズムの根本原因が彼らの社会から撲滅されるま で占領することを支持する。

我々は「イディオタリアニズム」を、人類の道徳的共同体の内部にお いて、共同体外で活動するテロリストや圧制者たちに援助と安逸を与え る各種欺瞞と定義する。

我々は左派のイディオタリアニズムを拒否する — 自由市場や個人の 自由、実験科学のおかげで西洋が、聖戦や「honor killing」(訳注: 文化的な 理由から、子供を生け贄にしたり、女性が夫の死後自殺することを名誉とみな したりすること)、女性の性器切除などが、馬鹿げた宗教によって是認された 日常茶飯事であるようないかなる文化よりも本質的により良い場所となったこ とを認識しようとしない、その道徳的な盲目さゆえに。

我々は右派のイディオタリアニズムを拒否する — それは砂に自分の 頭を突っ込んで、自分から見えないから他人は存在しないと思うがごとき孤立 主義を露呈しているか、あるいは我々の敵と同種の宗教的絶対主義がこだます るキリスト教狂信主義の政治計画であるかのどちらかであるがゆえに。

我々は文明の一員であり、我々は守るだけの価値がある文明を有している。 我々は戦争を求めているわけではないが、我々は最後まで戦いぬく。我々は思 想、発言、行動によって文明のために闘う。

我々は目覚めた。我々は世界に散らばるビン・ラディンやフセイン、アラ ファトとその同類の行動に悪の素顔を見た。我々は、彼らの悪行を可能とし免 罪するのに大いに貢献したイディオタリアンたちの嘘や自己欺瞞を見た。我々 は悪に立ち向うという義務に怯まない。

一市民、有権者として、我々は自分たちが選んだ者たちが対テロ戦争を、 あらゆる必要な手段を講じて勝利へのたゆまない意思をもって率先して遂行す るよう要求しなければならない — 一方で、我々自身が我々が闘ってい るものになってしまわないよう常に注意しなければならない。

我々は、西洋の最も鋭利な武器は理性と真実であるということを記憶する であろう。我々は無慈悲な光を、その上にテロリストの憎悪が築かれた嘘に当 てなければならない。我々はまた、我々自身の側からもたらされる便宜主義的 な嘘に油断無く注意しなければならない。そのようなことがあれば、我々の勝 利は堕落してうわべだけのものになり、将来禍根を残すことになろうから。

我々は、以上のような挑戦に対処できると確信している。我々は敵への恐 怖で麻痺することはないし、ましてや我々自身を恐れるということもない。

我々は道徳的な卑怯者や宥和主義者、言い訳がましい者たちを退けるだろ う。そして、我々は野蛮人や狂信者たちと戦い、彼らをうち負かす。 我々は戦争によって彼らをうち負かし、彼らの支配願望を叩きつぶす。そして 我々は、富と自由によって彼らの女性や子供たちを文明の道へと導き、彼らを 平和的にうち負かす。究極的には、我々は彼らの病的かつ敵意に満ちたイデオ ロギーを地球上から消し去るだろう。

世界貿易センターで亡くなった人々の、バリ島のサリ・クラブで亡くなっ た人々の、米国駆逐艦コールで亡くなった人々の、そしてまた、テロリズムや ならず者国家によって虐殺された中東の名も無き犠牲者たちの墓にかけて我々 はここに誓う。

あなた方の死は、決して無駄にならない。

Eric S. Raymond    
2002年11月2日  
(ここにあなたの署名を)

©2002 by Eric S. Raymond. リンクはご自由に、出版諸権利は著者が留保。

この宣言の背景となる情報はこちらからどうぞ。

翻訳は原著者の許可を得て、八田真行 <mhatta@debian.org>が行った。 原文はhttp://www.tuxedo.org/~esr/aim/ にある。訳に関して助言を下さったkatokt、山形浩生、田崎晴明の各氏に感謝 する。なお、訳者も訳に助言を寄せた人々も、この宣言の趣旨に必ずしも賛同 しているわけではないことに留意されたい。