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新反動主義の興味深い事例―ジャスティン・タニー

ホワイトハウスがWe the Peopleというオンライン請願サイトを運営していることは、日本でもよく知られている。2014年3月、ここに奇妙な請願が投稿された。すでにWe the Peopleのサイトでは見られないが、9TO5Googleに請願文が載っているので訳すと、

我々はオバマ政権に以下を請願します:
全ての米連邦施政権を技術産業へ移すこと。

オバマ大統領殿、

閣下に最大の尊敬の念を抱く者です。アメリカは偉大な国であり、あなたはその現状に秩序をもたらそうと身を粉にして働いてきました。しかし私は、あなたが勝てない戦いを戦っているように思い、憂えております。ワシントンの体制は何年もかけて無能となり、もはや今後直面する困難な問題に対処することができません。私は、今こそ平和的な変化の時だと考えます。

私は、以下に関して国民投票を行うことを求めます。

  1. 全ての政府職員を(年金を満額付与した上で)引退させること。
  2. 施政権を技術業界に移すこと。
  3. エリック・シュミットをアメリカ合衆国のCEOに任命すること。

今こそアメリカ合衆国の現体制を穏便に歴史から退場させ、アメリカにとって最善のことをすべきです。技術業界は我々に良い統治を提供することができ、さらなるアメリカの衰退を防ぐことができます。

—ジャスティン・タニー
2014年3月19日

この話は私がよく読む英ガーディアン紙の記事にもなっていたので、当時目にしたことがあるはずなのだが、全く覚えていない。というか、当時読んだとしても、ちょっと頭のおかしい人の単発の奇行と見なしたと思う(結局大した賛同票は集められず立ち消えになったし)。しかし新反動主義についていろいろ調べた後だと、これは(まあ頭がおかしいことには変わりないかもしれないが)それなりのロジックというか背景がある行動だということが分かってくる。民主主義と政府の否定。施政権(立法・行政・司法)をテクノロジー企業へ。そして当時GoogleのCEOだったエリック・シュミットを「王」に据えること。どこかで聞いた話でしょう。

この請願を投稿したのはジャスティン・タニーという女性(トランスジェンダー)で、「ウォール街を占拠せよ」(オキュパイ・ウォールストリート)運動の創始者の一人らしい。オキュパイ・ウォールストリートのTwitterアカウントやウェブサイトも彼女が設置し、管理していたようだ。現在はGoogleのソフトウェアエンジニアだそうである。タニーは元はアナーキストないしリバタリアンのようで、アメリカのエスタブリッシュメントへの反感に突き動かされているようだ。でもグーグルは信用しているのね。

日本ではオキュパイ・ウォールストリートは基本的に左派の運動だと思われていたと思うのだが、実際にはリベラルからリバタリアンまで様々なバックグラウンドを持つ人が参加していた。米大統領予備選でヒラリー・クリントンと戦い、予想外に善戦したものの敗れたバーニー・サンダース上院議員の支持者にも、オキュパイ・ウォールストリートの参加者は多くいる。サンダースの支持者も、十把一絡げに左翼とくくられることが多いと思うのだが、実際にはタニーのような潜在的なオルタナ右翼が結構混じっているのではないだろうか。「根はリベラルだからトランプに流れるはずがない」と言う人もいるけれども、タニーの例などを見ると、両者の距離は案外短いのではないかと思えなくもないのである。

面白いのは、新反動主義を含めたオルタナ右翼を貫く一つの軸はミソジニー(女性嫌悪)だと思うのだが、この人は性転換して男性から女性になったにも関わらず、このミソジニーの面が最も露骨に出たゲーマーゲート(Gamergate)事件にも積極的に参加してネット荒らし(トロル)をやっていたのである(The Daily Dotの記事)。ゲーマーゲートやオルタナ右翼の女性嫌悪全般に関しては長い話になるので別に書きたいのだが、一つ言えるのは、オルタナ右翼のミソジニーは日本でよく語られるアニオタが多くてどうこうというような牧歌的なレベルではなく、もっとねじくれた、非常に病的なものだということである。これが実におもしろい!

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